小さな体で大きな命。小さな物言わぬ家族のために。。。

 私が獣医師を決心したのは、高校2年の夏、忘れもしない小さな事件がきっかけでした。家で飼っていた茶トラのネコが、どこかに遊びに行って一週間ほどして帰ってきました。ギスギスに痩せて、頭部が縦に割られそこにハエウジがビッシリ。悪臭も放っていました。

 タオルでとってもとっても傷の中から出てきます。なんとか消毒を済ませ、ミカン箱にタオルを敷き中に寝かせてやりましたが、翌朝けいれんを起こして死んでしまいました。なんとかこの小さな命を助けてやれなかったか、また楽に死なしてやれなかったかと悩みました。昭和36年のことでしたので、近所では犬や猫の診療をしてくれる動物病院などはありません。しからば獣医師になって犬や猫を助ける仕事をしようと思ったわけです。

 足掛け7年の修行時代を経て、三郷の地で開業をし、地域を知る目的で2年間往診もしました。当時、犬猫の治療や、まして往診を依頼されるということは大変な時代でした。飼い主の家では4、5人の奥様が集まり、私の治療をじっと見守っておりました。「へー、犬にも血管があるのねー」とため息にも似た声が背中の方で聞こえたのを今でも忘れることはありません。

 現在は血液検査、レントゲン、心電図はもとより、超音波、CT,MRI 等が犬や猫の世界にも入り込み、高度医療が行われるようになりました。しかし、私にとっては、私の病院の企業理念ともいうべき“小さな体で大きな命”、“小さな物言わぬ家族のために”をモットーとして、苦しみを取るにはどうしたらいいかを考えつつ毎日診療を行っております。

 獣医師には「獣医師のちかい」という倫理綱領があります。
①動物の命を守り、人々の生活を豊かにしよう
②獣医学術を研鑽向上し、核心を持って業務に邁進しよう

などというものです。  時々、私の病院に中学生が課外授業の一環として見学にきます。そこで「獣医師とはどんな職業ですか」と聞かれます。その時の答えは「人の口に入るすべてをチェックする職業だ」と言います。皆さんが病気になった時に飲む薬、野菜、魚の農薬や毒性試験、肉の検査、鳥インフルエンザなどにもかかわっています。

 また、環境衛生の面でも、理髪店、美容室、食堂、レストランなどの衛生検査も行っています。このように獣医師の仕事は多岐にわたっています。この仕事を理解していただければ大変うれしく思います。

(※週刊東武よみうり、「私のエッセー」より)